「美術館のあるまちづくり」プランコンテスト 国内外の若者が知恵絞る 最優秀に韓国・南海大

 若者のアイデアをまちづくりに活かす「第3回倉吉市地域活性化プランコンテスト」(同実行委員会、認定NPO法人未来主催)が2月10日から12日まで2泊3日の日程で、倉吉市内で行われました。テーマは「美術館のあるまちづくり」。県外・海外を含む高校生、短大・大学生、若手社会人の5チームが、2年後に市内にオープンする鳥取県立美術館を活用したまちづくりを合宿形式でプランニング。その結果、壁画や路上アート、文化ゲストハウス村など街全体で芸術を楽しみ、関西・大阪エキスポと連動した交通手段などを提案した韓国・南海大の研修生チームが最優秀賞に選ばれました。

 

 同コンテストはこれまで「ドローンを使った赤瓦の景観PR」(第1回)「ライトアップ・イベント」「アニメやサブカルチャーによる若い観光客誘致」(第2回)など、若者らしい自由な発想によるまちづくりのアイデアが提案され、PR動画作成や「聖地巡礼型プロジェクト倉吉八犬伝」など、実際のまちづくりプラン、観光戦略に取り入れられています。

 初日の10日は、倉吉商工会議所で倉吉の特色や美術館の概要の説明があり、主催のNPO法人未来・岸田寛昭理事長が「プランコンテストの多くの提案が実際のまちづくりに採用され、皆さんへの期待度は大きい」、倉吉市生活産業部の谷田富穂部長が「これまで赤瓦など古い街並みを活かし、文化のまちづくりを進めて来ました。県立美術館のオープンは絶好のチャンス。皆さんの新鮮なアイデアを待っています」と歓迎の言葉を述べました。

県内外から参加したチームに歓迎の挨拶を述べるNPO未来の岸田理事長

 審査員は、同市出身で映画『フラガール』やNHK朝のドラマ『ちむどんどん』の脚本家で知られる羽原大介さんを委員長に、広田一恭倉吉市長、門脇誠司県中部総合事務所長、地元の大学・文化・芸術関係者ら8人。参加チームは、第1回コンテストで「ドローンを使った観光PR」で優勝し、今は同市の地域おこし協力隊員として活躍している草田敏生さんやまちづくり・観光担当の市職員、NPO未来顧問の岡崎坦さんらをメンター(助言者)にプランを練ります。

メンターの助言を受けながらさっそくディスカッションする参加チーム

県立美術館の建設現場で担当者の説明を聞く

 一行は同市駄経寺町で建設が進む県立美術館の工事現場を視察したあと、合宿先の関金温泉の宿泊施設「湯楽里(ゆらり)」に移動。寝食を共にしながらアイデアを出し合いました。

湯楽里で議論を重ねる参加者たち

翌11日は、市内を自由に散策。ワーケーション施設「坦庵」なども利用しながら提案内容を絞り込み、いよいよ最終日の発表に臨みました。

ワーケーション施設「さまざま働き処 坦庵」でもディスカッションが続く。

 3日目、プラン発表のトップバッターは、鳥取城北高2年の油谷瑞季さん、湯梨浜学園高1年の小木葉月さん、渡邊紘子さんによるフレッシュな高校生の「チーム・リリー」。コンテストで初めて顔合わせした3人でしたが、10代らしい発想で意気投合。〝推し活〟に着目し、「若い観光客の共感を得るには、アニメキャラやサブカルなど、ヲタクが盛り上げる倉吉を」と提案。美術館前の芝生広場でヲタク交流会やコスプレ撮影会など、楽しい企画をアピールしました。

県内高校生の合同による「チーム・Lily(リリィ)」

 続いて、韓国から来たユ・ウンソクさん、チョ・イッキョンさん、リ・ダジョンさん、リ・ジュアさんの南海大チーム。学生や芸術家、住民によるカラフルな壁画の景観で一躍、観光地になった釜山の「甘川文化村」を例に挙げ、「美術館地区と美観地区を緑の彫刻プロムナードで結び、街全体でアートが楽しめる空間を」と提案。関金温泉の文化ゲストハウス村、関西エキスポでのシャトルバス運行など、具体策も提示しました。

慣れない日本語で懸命に説明する韓国・南海大チーム

 3番手はリベラルアーツ教育で知られる敬和学園大チームの熊谷悠星さん、瀬賀翔平さん、岩城侑大さん、鎌田逸希さん。はるばる新潟新発田市からの参加です。4人は若い観光客を増やすには、「SNSなどで情報発信力が高い若者に、訪ねるだけでなく、将来は倉吉への移住やビジネス展開も考えてくれるようなリピーターの拡大を」と訴え、誰でも作品が応募できるアートのまちづくり、市内循環のモビリティの地域拡大も提案しました。

はるばる新潟から参加の敬和学園大チーム

 鳥取短大の国際文化交流学科の坂田悠呂さん、森本摩耶さん、重親凜花さんの「チーム国際トリオ」は、ゲストハウスと美術館のコラボを提案。「人々が交流できる場がまだ少ない」と指摘しながらも、音楽サイト『ひなビタ♪』のファンが住民に「おかえり」と温かく迎えられ、リピーター拡大につながっている例から、「人と人をつなげるゲストハウスでの対話型鑑賞、ワークショップなどで倉吉を第二の故郷に感じてもらう観光を」と訴えました。

地元・倉吉市の鳥取短大「チーム国際トリオ」

 最後に登場したのは唯一、若手社会人の鳥取銀行チーム。米村昇悟さん、川田塁さん、中村友香さんは、住民への年代別アンケートから「若い世代ほど買い物やレクレーション、交通の便など地元への満足度が低く、観光でもファミリー層向けのサービスが不足していないか」と指摘。年間30万人の美術館来館予想から「ファミリー層は18万」とし、空き家のDX化複合施設へのリノベ、キッチンカー導入など多様な観光客対応を提示しました。

社会人チームの鳥取銀行は、銀行員らしくデータを活用

「各チームの発表後、審査員長の羽原大介さんに『倉吉市くらしよし未来アドバイザー』の委嘱式が行われました。羽原さんに委嘱状を手渡した倉吉市の広田一恭市長は『ぜひ全国に倉吉の魅力発信と広い視点からのご助言をお願いしたい』と期待のコメント。

委嘱状を受け取る羽原さん

続いて、鳥取看護大の田中響教授とのトーク形式で、羽原さんが「アートによるふるさと福高(復興)」をテーマに講演しました。」

「脚本家になろうと思ったのはなぜ?」田中教授=向こう=の質問に答える羽原さん

羽原さんは「脚本家には芸術家タイプと職人肌タイプがあり、私は番組予算や制作期間にもしっかり配慮する後者のタイプ(笑)。一方、ドラマ『北の国から』で有名な倉本聰さんは、そんなことおかまいなし、自分の世界を追究する芸術家タイプの代表ですが、おかげで人口3万5千人の富良野は年間200万人が来る観光地になりました」と会場を沸かせました。

さらに、倉吉訪問の直前出席していたアジア・ドラマ・カンファレンス(石川県七尾市)の会合について触れ、「韓国は昔『日本のドラマに追いつき追い越せ』と国家予算まで投じた。今は『日本から学ぶものはもうない』と言われる始末。むしろ日本が二周遅れの状況」と語り、会合で出会った韓国のトッププロデューサーやライターから「今や日本はチャレンジしない国になった。同じところをグルグル回っているだけ」と言われたことを紹介。「それは映画やドラマの業界だけでなく、日本全体がそうなりつつあるのでは」と警鐘を鳴らし、リスクを恐れずチャレンジしていく心の大切さを訴えました。

映画「フラガール」つながりで田中教授からレイのプレゼント

 審査は「大接戦で難航」(羽原委員長)しましたが、次の通り決まりました。

▼最優秀賞=韓国・南海大チーム▼優秀賞=新潟・敬和学園大チーム▼入賞=鳥取銀行チーム▼佳作=鳥取城北高・湯梨浜学園高「チーム・Lily」、鳥取短大国際文化交流学科「チーム国際トリオ」

岸田理事長から最優秀賞の賞状と賞金を受け取る韓国・南海大チーム

 最優秀賞に輝いた南海大チームは「日本語での発表、初めての土地で大変でしたが、本当にうれしい。美術館ができる頃また倉吉を再訪したい」と喜びの声。

最後に、広田一恭市長から「われわれが気付かないところをいろいろ指摘してもらい、とても内容のある提案ばかり。今後の美術館を活かしたまちづくりに取り入れたい」、梅田雅彦県教委美術館整備局長からは「どれも甲乙つけがたい内容で審査は大変。街全体をアートの場にする南海大チームの提案をはじめ、だれでも作品を出展できる街角アートや対話型鑑賞の推進など、共感できる具体的なアイデアが多く、参考にしていきたい」と講評と感謝の言葉を述べました。