認定非営利活動法人(NPO)未来(鳥取県倉吉市、岸田寛昭理事長)は昨年、2024年で20周年を迎えました。認定NPO法人は、地元自治体から事業活動が高い公益性を持っていると認められたNPOが、活動をより幅広く、また市民や企業の寄付による事業支援が受けやすくなるよう税制上の措置が施されるもので、県内で300余りあるNPOの中で8番目となる承認です。設立20周年を記念して、これまでのNPO法人未来の「あゆみ」をまとめてみました。
PTAからNPOへ ~伊能ウオークとの出会い
NPO法人未来の創設時からの基本理念は「地域と子どもの未来を創造(つくる)」。NPOの名前「未来」の由来にもなりました。きっかけは、倉吉市内の小学校のPTA会長仲間だった父親たちのふとした会話から。当時「父親もPTA参加を」という声で、各地に「オヤジの会」が生まれていました。「子どもたちは県外に進学・就職してしまう」「倉吉は何もない、なんて言われたくない」「じゃあ、自分たちで何か自慢できるものを創れないか」。世紀をまたぐ直前の2000年でした。
ちょうどその年、伊能忠敬の足跡をたどる「伊能ウオーク」が倉吉で開催されることに。「オヤジ」たちは、子どもたちがボランティアとして運営に参加し、地元の姿や歴史を知り、人々とふれあうことで、地域への誇りや絆が生まれないだろうか、と考え、校区の垣根を越えて活動を始めました。これがNPO法人未来の出発点です。
伊能ウオーク倉吉大会の実行委員長は当時、河北小学校のPTA会長だった岸田寛昭理事
長が務め、多くのPTA仲間や市民ボランティアを巻き込んだ倉吉市、鳥取県中部では初めてとなる大規模なウオーキング大会になりました。同ウオークが成功のうちに終わると、「ウオーキング」という健康づくりの原点となる魅力、さらにもっと広い視点である「まちづくり」の大切さに気付いたメンバーたちは、やがて文化やスポーツ、観光、医療福祉、子どもの健全育成から若者の雇用創出まで、地域の活性化に取り組める特定非営利活動法人=NPOの設立を思い立ちます。
こうして伊能ウオーク倉吉大会の実行委員長だった岸田寛昭を理事長に、他校のPTA仲間や市民有志に呼び掛け、2004年1月、NPO法人未来は設立されました。設立当初からその活動の柱には「Think Globally Act Locally=地球規模で考え、足元(地方)から行動しよう」というグローカルの精神を据えました。これは後に倉吉から全国、さらに韓国・台湾など、地域や国を越えた交流へとつながっていきます。
友好と平和の架け橋 ~SUN-IN未来ウオーク
伊能ウオーク開催の翌2001年には「くらよし未来ウオーク」、2002年には、もっと活動の輪を広げようと、地元の日本海新聞社と共催し、鳥取県や倉吉市、中部町村の応援も受けて「日本海未来ウオーク」と改称したウオーキング大会が開催されることになりました。
未来ウオークでは、全国各地から参加者を温かく迎え、コースに立って道案内や地元の歴史を解説するのは、地元の中高校生や市民のボランティア。これが評判を呼び、県内外からの参加者は年々増えていきました。
NPO設立の2004年には、早くも国際交流—韓国原州市の国際ウオーキング大会に初参加。ここで大韓ウオーキング連盟と未来が「ウオーキング友好協定」を締結することになり、参加した未来の会員らは、いきなりの締結に戸惑いと喜びの興奮の中で帰国。これをきっかけに韓国との深い交流が始まりました。
大韓ウオーキング連盟のイ・ガンオク理事長(韓国尚志大学教授)はたびたび倉吉を訪問。2010年春の未来ウオークには韓国から多くのウオーカーたちが参加し、秋には日本から原州市の大会に参加するという世界初の日韓共同開催による「ピースウオーク」が実現しました。このころ日韓は歴史や領土問題をめぐって難しい問題を抱えていた時代で、こうした市民のウオーキングを通じた日韓交流は内外から大きな反響を呼びました。
国外にも交流が広がる中、翌2011年には、美しい日の入り(SUN—IN)が見られる山陰で「友好と平和の架け橋となる大会を目指そう」という思いから大会名を「SUN—IN未来ウオーク」に改称。この年はまた、ストックを使って身体を有効に動かすノルディック・ウォークの普及を目指すため、医師である未来の松田隆副理事長らが中心となって「日本ノルディック・ウォーク学会(現、日本ノルディック・ポール・ウォーク学会)」を設立。第1回の学術大会が東伯郡湯梨浜町で開かれ、また、鳥取県中部医師会と韓国・原州市医師会との交流も始まり、2014年には医師会同士の友好協定も結ばれました。
2012年には日本トップクラスの大会として認定されて、日本マーチングリーグ(JML)に加盟。同時に東郷湖畔に日本初のウオーキングカフェ「Café Ippo(カフェ・イッポ)」もオープンしました。秋には第1回100㌔ウオークが開かれ、「健康づくりとウオーキングリゾートの地域ブランド化」が高く評価され。同年、国土交通省の「全国地域づくり推進協議会長賞」を受賞しました。
2015年10月にはATC(アジア・トレイル・カンファレンス)を地元開催。
さらに2016年には世界33か国から約300人、のべ参加者4000人が参加したWTC(ワールド・トレイル・カンファレンス)が鳥取にて開催。
「PTAのオヤジたち」は地方から世界へ、グローカルの夢をついにかなえました。
ウオーキング立県へ「歩かない県」逆転の発想
こうしてウオーキング大会の開催で県外や国外にも有名になりましたが、実は昔から鳥取県は男女そろって「歩かない県民ランキング」で上位の常連。公共交通機関が少なく、どこに行くにも車が必要な暮らしが原因で、高齢者になっても元気で暮らせる「健康寿命」には危険な状況。医療・介護費もひっ迫します。
この流れを変えようと、2009年6月に平井伸治鳥取県知事や大韓ウオーキング連盟のイ理事長、日本ウオーキング協会の村山友宏元会長らが出席し、倉吉市内で記念フォーラム「ウオーキング立県とっとりをめざして」が開かれました。
フォーラムの中で平井知事は県民が毎日2000歩ずつ多く歩くことを推奨、「健康づくりを地域の文化として定着させましょう」と呼びかけ、出席者全員で「ウオーキング立県とっとり」が宣言されました。歩くことを通じて住民の健康増進を図り、また全国から多くの人たちが集い、交流できる元気で豊かで地域づくりが目標です。さらに席上では、子どもたちの健全な成長を促すための足元からの健康づくりとしての「歩育」の必要性も取り上げられました。
2013年には未来ウオーク発祥の地である倉吉未来中心の広場の一角に、韓国のイ理事長の「自然こそが病院であり、あなたの2本の足がお医者さんです」という言葉を刻んだモニュメントが設置されました。
ところが2020年、こうしたウオーキング立県の推進や国際交流の大きな妨げとなる「新型コロナ感染」が世界中に瞬く間に広がりました。同年、記念大会としてアジア各国から多くのウオーキングや医療福祉関係者が出席予定だった「第20回記念未来ウオーク」は中止、翌年も県内参加に限定する形での開催を余儀なくされました。韓国、台湾をはじめ海外との交流もこの間は滞りました。
コロナ禍を越えて~深まるアジアとの絆
コロナ禍が次第に収束に向かい、4年ぶりにフルスペックのSUN-IN未来ウオークの開催準備を進めていた2023年1月、認定NPO法人未来に「朗報」が舞い込みました。
共同通信社と加盟の地方新聞社46社が、地域に活気を与え魅力を高める活動に取り組み、成果を上げた団体を選考し顕彰する「第13回地域再生大賞」の優秀賞に選ばれたのです。
この受賞に勢いを得て、同年6月の第22回SUN-IN未来ウオークの前日、「歩いて繋(つな)ぐ地域とアジアの未来づくり。さー行こう!」をテーマに倉吉市内でATN(アジア・トレイル・ネットワーク)総会と交流大会「アジア・ウォーキング・フォーラムin鳥取」が開かれました。同総会の倉吉市での開催は8年ぶり2回目です。
フォーラムには日本、韓国、台湾の3か国のウオーキング団体や地方自治体の関係者、市民ら約100人が参加、今後のアジア地域でのウオーキング(トレイル)の普及と交流の発展、観光推進などについて熱く話し合いました。
同年のSUN-IN未来ウオークでは、台湾最大のウオーキング団体、千里歩道協会(周聖心執行長)と認定NPO法人未来が「ウオーキング・イベントを通じた国際交流と友情を育む連携協定」を会場ステージにおいて締結。台湾から同協会を含めて53人が参加し、日韓に続いて日台でも大きな友好の絆が結ばれました。
「地球規模で考え」「足元から行動する」認定NPO法人未来の活動は、次第に国の内外から評価され、国境を越えた絆と友情を築きつつあります。「世界に開かれたふるさと鳥取、倉吉」は、未来を生きる子供たちにとって大きな誇りと自信になるでしょう。
まちづくりのフロンティア ~多彩な事業を展開
20年にわたる「ウオーキング立県とっとり」の取り組みを振り返ってきましたが、認定NPO法人未来が取り組んできたのはウオーキング事業にとどまりません。
子どもたちの未来につながる「まちづくり、地域の活性化」は設立当初からの目標。で、スポーツ文化、観光・温泉の活性化や雇用創出、介護医療福祉、地元の特産品振興やふるさとの情報発信など、人々が集まり、にぎわい、産業や交流が豊かになる地域の実現を目指した「まちづくりのフロンティア(開拓者)」の取り組みを推進しています。
分野別にまとめてみましょう。
- スポーツ文化の継承と発展 倉吉市は昭和の名横綱、先代・琴櫻(元佐渡ヶ嶽親方)の出身地。横綱の業績を顕彰した市の琴桜記念館の運営委託のほか、その孫の大関琴櫻を含む佐渡ヶ嶽部屋一門を応援する「鳥取県桜友会」、さらに地元出身で「令和の怪物」と呼ばれる伯桜鵬(伊勢ケ浜部屋)の地元後援会の事務局を担当し、日本伝統のスポーツ文化である大相撲のファンを増やし、相撲を通じた子どもたちの健全育成に取り組んでいます。
- 観光・温泉の活性化と雇用創出 かつて多くの観光客・湯治客でにぎわった関金温泉(倉吉市関金)の復活に向けて、同温泉の日帰り入浴施設「せきがね湯命館」の指定管理(LLP「白金の湯」)を中心に、日本一美しい廃線跡「旧国鉄倉吉線跡」のPRや集客イベントを通じて、にぎわいづくりや若者の雇用創出に取り組んでいます。
また国内外の若者を招き、宿泊滞在しながら観光とまちづくりのアイデアを練ってもらう「地域活性化プランコンテスト」や、コロナ禍をきっかけてリモートワークや観光をしながら仕事ができるなどワーケーション施設「坦庵(たんあん)」など、ユニークな取り組み。
- 健康で子育てが安心な地域づくり、医療福祉の推進 「歩かない県民ワーストの鳥取県」の汚名返上を目指して県内19市町村でウオーキングの普及を図る県の「19のまちを歩こう」事業、安心して子育てができる県の「子育て王国」のサイト運営など、行政の事業委託を受けて取り組んでいます。
また、老後も安心して暮らせる地域へ、福祉サービス評価事業(有資格者による介護事業所等のサービスや施設の状態チェック、改善を促す外部・第三者評価)も長年担っています。
- 農業や産業・特産品の振興と「ふるさと情報」の発信 農業や畜産・漁業が盛んな倉吉市や鳥取県中部は、特産の梨やカニをはじめ乳製品やお酒など全国に誇る特産品の宝庫。
こうした特産品を全国に売り込もうと、NPO法人未来では独自にEC(ネット通販)サイト「鳥取みらいマルシェ」を2021年に立ち上げ、PRと地元の農家や業者の収入アップを目指しています。また倉吉市のふるさと返礼品の事業委託にも取り組んでいます。
こうした特産品の販売拡大や観光の発展に大切なのが、「ふるさと情報」の発信。2022年に「ニッポン最強の穴場、鳥取県の情報をお送りします」をうたい文句にWEBニュースサイト「鳥取タイムズみらい」を立ち上げ、さまざまなイベントや地元のトピックス、特産品紹介、まちづくりの動きを伝えるメディアの役割を果たしています。
さらなる「未来」へ
2024年10月、設立直後の認定NPO法人未来が韓国・原州市に拠点を置く大韓ウオーキング連盟(李康玉会長)と連携協定を結んでから、2024年で交流20周年を迎え、これを記念して岸田理事長に原州市(元康修市長)から名誉市民の称号が贈られました。同市の「原州国際ウオーキング大会」が今年で30回を迎えることから、同じく交流を続けている長野県飯田市とともに名誉市民証が贈られることになったものです。
大会前日の10月25日、世界各国の参加者が集まる交流会が行われ、席上、原州市の全在燮(チョン・チャソプ)副市長から岸田理事長に記念のガラス製の賞杯が手渡されました。岸田理事長は「大韓ウオーキング連盟との交流20年の年に30回を数える大会に参加できたのは本当にうれしい。今後も両国の友好が未来志向で長く続くようお互い努めていきたいと思います」と笑顔でコメントしました。
また国内では、鳥取、島根両県で地域文化の向上に貢献した個人・団体に贈られる「第37回山陰地域文化賞」(トワライズ主催)の受賞団体に認定NPO法人未来が選ばれ、11月26日に米子市内で表彰式が行われました(島根県は江津市の「波子まちづくり活性化協議会」)。
山陰地域文化賞は、トワライズ(旧・山陰信販、米子市東福原2丁目、古山英明社長)が1988年に創設。毎年、受賞者・団体を表彰するとともに活動資金が贈られるものです。
受賞した岸田理事長は「10年続ければ地域の文化、受賞により『ウオーキングを文化にしたい』という当初の思いが認められた。これからも『地域と子どもの未来を創造』を活動の柱に、ウオーキング・イベントだけでなく、まちづくりにおいても世界や次世代につなげる活動を進めたい」と決意を新たにしました。
鳥取県の平井伸治知事は、著書「小さくても勝てる『砂丘の国』のポジティブ戦略」の中で、「日本一人口の少ない鳥取県だからこそ、アイデアと逆転の発想で大きな実績が挙げられる」と指摘しています。小さな県、小さな地域だからこそ、人々のつながりや努力でできることがあります。
20周年フォーラム『震災復興からの未来づくり』
そして、認定NPO法人未来(鳥取県倉吉市、岸田寛昭理事長)は2024年12月14日、鳥取短期大学シグナスホール(倉吉市福庭)に鳥取県の協働推進課長や財政課長を歴任し、昨年春に熊本県知事に初当選した木村敬氏と平井伸治鳥取県知事をゲストに迎え、設立20周年記念フォーラム『震災復興からの未来づくり』を開催。「地域と子どもたちの未来のために今、われわれは何ができるのか」、参加したNPO法人未来の会員や市民、各界代表者ら200人余りを交えて真剣に語り合いました。
終わりに~21年目の決意
「ウオーキング立県とっとり」への道のりはまだ始まったばかり。私たちNPO法人未来は、これまでの20年間の取り組みを踏まえ、次の一歩へ。活動の原点である「地域と子どもたちの未来を創造(つくる)」「地球規模で考え、足元(地方)から行動しよう」を大切にし、さらなる挑戦と努力をこれからも続けていきます。
認定NPO法人未来理事長 岸田寛昭、会員一同