
かつて市民の手で映画化運動が起きながら夢が途絶えた谷口ジローさんの漫画『遥かな町へ』の映画化が再び動き始め、メガホンをとる錦織良成監督と市民らが語る会が6月2日、鳥取県倉吉市上井町1丁目の日本海新聞中部本社2階ホールで開かれました。会場には鳥取県や倉吉市、倉吉商工会議所、倉吉観光MICE協会の関係者のほか応援する市民ら110人余りが参加。8月の盆明けから始まる市内ロケの協力や、倉吉の魅力を全国に発信するキャンペーンへの支援を誓い合いました。

バブル経済崩壊後の平成10年、都会の生活に疲れた中年男性が、経済成長期の昭和38年のふるさと倉吉市に中学生としてタイムスリップ、家族のきずな、ふるさとの街の人々との交流をノスタルジックに描いた谷口さんの代表作で、ヨーロッパでは数々の国際漫画賞に輝いています。先日は倉吉市内で出演する中学生を選ぶオーディションも行われました。

「語る会」では、錦織監督が「アメリカ映画ばかり観ている日本人は、ここに生まれて良かったと思える映画に出会えていない」と持論を展開。「観光の『光』とは、倉吉の人たちの普通の暮らしや文化、産品の魅力であり、人々はその『光』を求めてやって来る」と解説。出身地の島根県を舞台にした作品(『白い船』『うん、何』『渾身』『レイルウエイズ』)を観た「東京の人たちは映画館前に行列し、欧米人が島根県を訪れている」と語り、「観光客誘致が目的の、そんな小さな映画はつくらない。他人への気遣いや優しさなど、人々の望む未来はどこか懐かしさがある。それは海外の人たちも感じ始めている。そんな懐かしさを倉吉を舞台にしたこの映画で描き、倉吉の人たちが子や孫まで誇りに思える映画にしたい」と決意表明しました。

映画化は昨年12月下旬、境港観光協会会長でTVプロデューサーの結城豊弘さんと、平田市や雲南市、一畑電鉄、隠岐島など島根県を舞台にした数々の傑作で知られる錦織良成監督、それに倉吉を拠点にハンドバックの製造販売で海外戦略にも意欲を見せる㈱バルコスの山本敬代表取締役の3人が、「倉吉市を舞台に『遥かな町へ』を映画化しよう」と飲み会で意気投合、「倉吉ニューシネマプロジェクト」を立ち上げました。
錦織監督の講演に続いて、制作プロデューサーの護縁株式会社・安川唯史氏が「8月の盆明けから9月末まで約40日間、市内でロケを行い、来年3月までに編集を完了。海外映画祭に出品し、来秋には全国公開したい」と今後のスケジュールを説明。続いて忙しい日程の合間を縫って結城総合プロデューサーも会場に駆けつけ、「映画は消えない。子供の心に残り、地域の魂になる」と地域を挙げた支援を要請しました。

倉吉市では倉吉商工会議所や倉吉青年会議所、倉吉観光MICE協会などを中心に「映画『遥かな町へ』を応援する会(仮称)」を立ち上げ、ロケ支援や寄付・協賛金の募集などを行う予定。7月13日(日)には倉吉未来中心大ホールで「応援する会キックオフミーティング」を開催します(午後2時から、参加自由)。
また倉吉市の認定NPO法人未来(岸田寛昭理事長)では、全日空などと連携し、『遥かな町へ』の映画化に合わせて海外旅行客の誘致を目指す「プレミアインバウンドツアー」(観光庁採択事業)を今年後半に催行する予定です。