「強い伯桜鵬関」を育んだ背景 出身の倉吉幼稚園で「土踏まずと下あごの形成」考える公開研究発表会

 大相撲名古屋場所で新入幕ながら敢闘賞、技能賞をダブル受賞する活躍を見せた倉吉市出身の伯桜鵬関(宮城野部屋、本名・落合哲也)。〝令和の怪物〟と呼ばれる彼が幼少期に通った認定こども園・倉吉幼稚園(米村秀昭理事長、倉吉市仲ノ町)で7月29日、自主公開研究発表会が開かれました。テーマは「乳幼児期から始まる生きる力の根っこ育て~土踏まずと下あごの形成を目指して」。同園の実践保育は関取が在園中の頃から取り組まれており、伯桜鵬関の抜群の下半身の安定感・粘りなど「強さのヒミツ」がそこから垣間見えてきました。ダイジェストでお伝えします。

 第13回を数える研究発表会はコロナ禍で2年続けて中止となり、昨年はオンライン形式での開催。ようやく対面で開催された今年は、保護者をはじめ県内の保育・小・中学校関係者ら約130人が詰めかけました。実は伯桜鵬関の母、落合和美さんは同園のベテラン教諭で現在は副園長。研究発表会では司会進行役を務めておられました。

「ようやく対面の発表会が実現しました」。歓迎の挨拶を述べる日野園長

幼・保から小・中学校まで「つながる」取り組みに

―研究実践発表

 研究発表会ではまず同園研究主任の石賀浩美さんが「子どもたちの土踏まずと下あごの形成を促す」同園の研究実践活動を振り返って報告。「万歩計の集計では、外遊びの減少やゲームなど室内遊びの増加など、コロナ禍による運動制限の影響が感じられる」としながら、「毎朝10分の『一斉足遊び』で足の指や足裏を意識した運動を実践」「硬いものを噛むカミカミおやつ、口周りと舌を動かす『お口あそび』などに取り組んできた」と説明。

 「園児らの卒園後の成長を追う中で、子供たちの成長をつながりあるものとして幼・保、小・中学校が連携し、継続的に見守る大切さを強く感じた」として、昨年度、倉吉市成徳地区の6施設が協同して「0歳から15歳までの育ちを見つめる教育構想プロジェクト」を立ち上げたことを発表しました。

子供によくない「成長を見越した大きめの靴」

                        ―吉村眞由美先生の講演会

 続いて「足の成長と靴のお話」と題して、子供たちの靴の正しい選び方、履き方を全国的に指導している早稲田大学招聘研究員(学術博士)、JASPE足育事業特別顧問の吉村眞由美先生が講演を行いました。

 吉村先生は「シュー・エデュケーション(靴の教育)の目的は、①子供たちの運動パフォーマンスの向上②足感覚の育成③転倒や傷害予防④緊急時の安全確保(災害・交通事故での機敏な対応)」と話し、スリッポン・片側ベルト・折り返しベルト・ひも結び、それぞれの子供靴の最適なサイズや履き方について具体的数字を挙げて説明しました。

 とくに強調したのは「もったいないサイクルの弊害」。子供の足はすぐ大きくなるからもったいない、と親は大きめの靴を毎回選びがち。「それが疲労や痛み、運動パフォーマンス低下につながっていても、子供たち自身は靴が合っていないと訴えることは少ない。自分に合った靴は気持ちよく、子供たちは歩く楽しさが体感できる」と指摘しました。

「子供にとっての〝足〟と〝歯〟とは」

―実践保育シンポジウム

 研究発表会の締めくくりとして、同園の日野彰則園長をコーデイネーターに、吉村先生と石賀研究主任、実践保育を始めた当時の西田直美元理事長、園医や園歯科医の先生たちによるシンポジウム「子供にとっての〝足〟と〝歯〟とは~これまでの振り返り、そしてこれからの拡がり」が行われました。

 同園で実践保育が始まったのは2007(平成19)年。伯桜鵬関が4歳の頃でした。

 園医の松田隆医師(まつだ小児科医院院長、認定NPO法人未来副理事長)が当時を振り返ります。「健診で同園を訪れると、園児たちの体がグラグラ、直立姿勢がままなない。どうやら土踏まずに問題があるらしい、と気づいた」。同園もすぐに対応。西田元理事長は「すぐに文科省に補助金申請し、足型の測定器と万歩計を導入。そこから①丈夫な身体をつくる②脳を鍛える③五感力を鍛える④豊かな感性を培う―を4本柱に実践保育のプロジェクトチームがスタートした」と話します。

子供たちの歯の現状について説明する森本歯科医

 さらに子供たちの下あごの問題も分かりました。園児らの歯を診ている森本英嗣歯科医師(森本歯科医院長)は「柔らかな食べ物が多い生活習慣から、下あごが十分成長していない。永久歯に生え変わるすき間がなく変な方向に生えてしまう」と指摘、「カミカミおやつ」などの実践や、継続的な歯列のチェックを行ってきました。

 一方、吉村先生は「倉吉は靴教育にとって〝聖地〟のような存在。16年間の取り組みは全国のお手本になり、小・中学校にも広がっている」と高く評価しました。

こうした「これまでの振り返り」から、どう「これからの拡がり」を進めていくのか。

 西田元理事長は「園は園、小・中学校は小・中学校とバラバラであってはいけない。当初から、子供たちが卒園後も豊かで幸せな人生が送れる〝全人教育〟を目指そうという思いがあり、市の教育行政にも提案した」と話します。それが形になったのが「0歳から15歳までの育ちを見つめる教育構想プロジェクト」。石賀研究主任は「模索しながらの取り組みだが、〝先生がつながれば、子供たちがつながる、育ちがつながる〟という気持ちで頑張りたい」と決意表明。会場に詰めかけた鳥取や米子、境港の幼稚園関係者、近隣の小・中学校の校長からは共感や励ましの声が寄せられていました。

「つながりの輪を広げたい」。詰めかけた参加者にお礼の言葉を述べる同園の米村秀昭理事長