健診で訪れた園児たちは、体がグラグラ、直立姿勢を保つことがままならない…ふとした園医の〝気づき〟から始まった、子供たちの「土踏まず・下あごの形成」を考える認定こども園・倉吉幼稚園(米村秀昭理事長、倉吉市仲ノ町)の研究実践保育。7月2日、コロナ禍を越えて3年ぶりにその研究発表会がオンライン形式で開かれ、同園関係者や医師、シューズ開発者らを交えた発表やシンポジウムが行われました。その概要をお伝えします。
2007(平成19)年、倉吉幼稚園の取り組みのきっかけを作ったのは、園医の松田隆医師(まつだ小児科医院院長)。実は「歩育ウオーク」も取り入れているSUN―IN未来ウオークを毎年運営している認定NPO法人未来の副理事長です。
研究発表会ではまず主幹保育教諭の石賀浩美さんから、これまでの同園の研究実践活動が報告されました。石賀教諭は「低年齢児の土踏まず形成率は平成30年以降〝越えられない壁〟があり、90%以上を目指す卒園児の形成率も近年は低下傾向、コロナ禍による巣ごもりなど運動環境の変化が影響していると思われる」「8歳頃には足の骨が固まる。乳幼児期はまさに形成のゴールデンタイム」「足に合った靴選びのほか、幼児が正しいはき方を歌いながら学べる『くつくつソング~上手にはけた』を導入」「歯のかみ合わせのトラブルが増加。カミカミ給食など、子どもの咀嚼力を伸ばす取り組みにも日常的に取り組んでいる」など日々の実践と検証について発表しました。
続いて1976年から教育的価値の高い学校シューズの研究開発に取り組んでいるJES日本教育シューズ協議会の早川家正理事長が「足元から考える子どもたちの健康づくり」をテーマに講演。「長く学校シューズの改良に取り組んできたが、2006年の実態調査で、靴は改良されたのに子供たちの足は良くなっていないことが分かり、ショックを受けた」と話し、「このままでは今の子どもは60歳ごろになったら4人に1人は杖をついている、という大学の先生の衝撃的な報告もある」「学校、保護者、地域を挙げた『足育』の推進が必要。ドイツでは、足に合った靴選びやはき方を指導する『足育マイスター制度』が確立されている」「安定して立って運動するには、カメラの三脚のように安定した足のアーチが必要。縦のアーチが低下すれば偏平足、横が低下すれば開帳足になる」「(靴の中で)足指の運動ができるのが自分に合った正しい靴、と覚えてもらったらいい」などとアドバイスしました。
この後、同園の日野彰則延長を進行役に、園医の松田医師、園歯科医の森本英嗣医師(森本歯科医院院長)、早川理事長によるシンポジウム「子どもにとって〝足〟と〝歯〟とは」が行われました。
研究実践保育の発端となった松田医師は「足の形成が子どもたちの成長に大きな影響を与えていると気づいたが、世間の注目度はまだ低い。教育課程に積極的に取り入れていく必要がある」「今、子どもたちの足に起きているのは、①重心位置が後方にずれる浮き趾(あし)②運動能力が低下する足趾の変形③集中力低下や疲労を招く悪い姿勢」と警告、「ドイツの足育マイスターに接し、父親と母親がそろって3歳児の靴を選び、履き方を教えている文化を知った」と先進国の取り組みを紹介し、「幼児期からのシュー・エデュケーションから、楽しみながらのウオーキング(歩育)と続くライフスキルの形成が老後までの充実した人生を左右する」と指摘しました。
一方、歯科医の森本医師は「歯科衛生やケアの関心が高まり、12歳の虫歯は30年前は平均10本程度だったのが今は1本以下と、劇的に改善されてはいる」と現状を報告する一方、「かまなくてもいい食事が多いため、最近の子どもは、あごは小さくなったが、歯の大きさは変わらないので、歯並びやかみ合わせ、あごの異常が増えている。人間は木の根をかじり、木の実も砕くあごがあったから生き残ってきたのに、それが退化しつつある」と解説。「最近テレビで、食べ物を口に入れた瞬間『美味しい』と叫ぶリポーターが多いが、あれは良くない。しっかり噛んで味わうと、栄養分もよく吸収し、薄味でも美味しさを感じることができる」と、日頃からよく噛んで食べる食生活の改善を勧めていました。
また早川理事長は「人生100年時代、この現状では子どもたちの未来につながらない。学校や幼稚園、保護者や地域の連携で、倉吉幼稚園のように乳幼児期から成長をきちんとサポートする、そういう取り組みが当たり前になる社会をつくらなければならない」と呼びかけました。