「歩いて繋(つな)ぐ地域とアジアの未来づくり。さー行こう!」をテーマに、「第22回SUN-IN未来ウオーク」が開かれる鳥取県倉吉市内で大会前日の6月2日、ATN(アジア・トレイル・ネットワーク)総会と交流大会「アジア・ウォーキング・フォーラムin鳥取」が開かれ、日本、韓国、台湾、モンゴルなど4か国のウオーキング団体や地方自治体の関係者、市民ら約100人が参加して今後のアジア地域でのウオーキング(トレイル)の普及と交流の発展について熱く話し合いました。
「アジア・ウオーキング・フォーラムin鳥取」(認定NPO法人未来、公益財団法人・とっとりコンベンションビューロー共催、鳥取県、中部1市4町後援)は、未来ウオークの20回記念イベントとして3年前に計画されていましたが、新型コロナ感染拡大で中止、延期となっていました。昨年12月に台湾・台北で開かれた「アジア・トレイル・ネットワーク」(9ヵ国・地域、14団体が加入)の総会に岸田理事長が出席して開催が正式承認され、8年ぶり2回目の倉吉市開催が実現しました。
ATN総会:台湾に事務局代表をバトンタッチ
次回開催地は「韓国・慶尚南道」に決定
JR倉吉駅前のホテルセントパレス倉吉で開かれたATN協会では、事務局代表を済州(チェジュ)オルレの安殷周(アン・ウンジュ)代表理事から、台湾の千里歩道協会の周聖心(チヨウ・ションシン)執行長にバトンタッチ。台湾総会以降の事業報告、アジア地域にさらに多くの「歩いて健康と友好を広げる」活動方針などを確認し、次回総会は主催者に立候補した韓国・慶尚南道の「社団法人スプギル」を全会一致で承認しました。また再来年の総会開催地として宮城県の宮城オルレが手を挙げました。
アジア・W・フォーラムin鳥取
「歩いて観光、インバウンド、関係人口拡大を」
第1部「ウオーキングによる地域創生」
第1部のオープニング・アクトは「三朝温泉あったか座」の三味線の演奏=写真=から始まりました。コーディネーターは未来ウオークの大会長で、地元の学校法人・藤田学院(鳥取短大・鳥取短大附属こども園・鳥取看護大)の山田修平理事長。「歩いて繋ぐ地域とアジアの未来づくり—今回のテーマは、子供たちが『歩いて行けば、世界に繋がるんだ』と感じてもらえるように決めた。グローカル(世界的な視点で考え、地域で行動する)が私たちの視点」という山田理事長の言葉からスタートしました。パネリストは日韓のウオーキング組織代表、ウオーキングイベントを開催している埼玉、長野県の地方自治体首長らです。
「ウオーキングさきがけの町」
埼玉県東松山市 森田光一市長
都心から45キロの恵まれた立地条件と便利な交通体系を背景に日本で初めて3日間異なるコースを歩く国際基準の「日本スリーデーマーチ」を開き、1987年には世界8カ国が参加する国際マーチングリーグ大会に発展。ここまで継続できたのはやはり市民ボランティアや子供たちの参加が大きい。ウオーキングが市民の日常生活にすっかり根付き、医療費抑制など健康対策にも大きな効果が出ています。
「住民のもてなしの心大切」
長野県飯田市 佐藤健市長
私は総務省から鳥取県財政課長に出向したこともあり、鳥取県は知り合いも多く親近感があります。飯田市は1987年、市制50周年記念で始めた「飯田やまびこマーチ」が市民生活に溶け込んできました。チェックポイントでは住民が「おもてなしの心」をもって飲食をふるまう、またPTA挙げての参加など、人とのつながり、家族との時間の大切さなど、歩く喜びを通じて得たものは大きい。
「歩く喜びをまちづくりに」
畑浩靖日本ウオーキング協会会長
産業革命で人間は歩く距離が3分の1~4分の1に減り、運動不足による生活習慣病だけでなく、精神的に「自然欠乏症候群」に陥っています。これを解決するのがウオーキング。私たち日本協会は全国各地の自治体と包括連携契約を結び、「日本一歩きたくなる町」(埼玉県横瀬町)など、魅力的で健康的なまちづくりを推進しています。
「日本から多くを学んだ」
李康玉(イ・ガンオク)大韓ウオーキング連盟会長
歩くことは天からの授かり物で、自然こそ病院、あなたの2本の足はあなたのお医者さんです。貧乏人でも金持ちでも、病気の人でも健康な人でも等しく歩く機会は与えられています。私に示唆を与えてくれたのは日本の取り組みでした。東松山、飯田、倉吉市のイベントに参加し、交流を結びました。今や韓国では2万人を超すウオーキング指導者が養成されるまでになりました。
「官民連携で地域資源引き出す」
広田田一恭倉吉市長
倉吉市は先ほどの2市と違い、NPO未来という民間団体が主体となってウオーキングの取り組み(未来ウオーク)が始まり、それを行政や地元企業が支援するという形で広がってきました。「地域資源を活かし、官民で歩む活気あふれる元気な倉吉」がわれわれの目指すもの。地域資源の活用のみならず価値の再認識、保全活動や遊休施設の再利用など、これからもウオーキングによる元気なまちづくりを推進したい。
第2部「オルレによる関係人口づくりについて」
第2部はより具体的です。順調に増えて来たインバウンド(訪日外国人旅行客)はコロナ感染拡大で大きく躓(つまづ)きました。その中で地方が光明を見出したのが、韓国の観光地・済州(チェジュ)で生まれた「オルレ」(町の路地裏や自然の小道を歩くウオーキング)。済州のコンセプトとルールを共有し、九州、宮城、さらに湯梨浜町でも「友情の道」は広がりました。コーディネーターはNPO未来の副理事長で小児科医の松田隆氏。「オルレは小さな旅を長期滞在型観光に変えた。『歩いて繋ぐ』がまさにキーワード」と切り出しました。
「地元の価値を再発見する」
安殷周(アン・ウンジュ)済州オルレ代表理事
オルレは歩く自分たちだけのためでなく、そこの自然や、そこに住み、出会う人たちすべての幸せを願いながら歩く。それがオルレの精神です。SDGs=持続可能な取り組みであり、地域の人たちにとっては地元の価値を再発見し、地域外の人たちを迎えるきっかけになる、と言っていいかも知れません。スペインの巡礼の道(サンチャゴデコンポステラ)からインスピレーションを得て始めた取り組みですが、私たちはこれを地球規模で広げていきたいと思っています。
「九州で広がるオルレの波」
猿本邦博九州オルレ認定地域協議会事務局長
東日本大震災の影響でインバウンドが減少。韓国市場向けの観光客回復のキラーコンテンツとして浮上したのがオルレでした。九州7県で展開し、現在18コース。済州と同じルールでコースを整備。コンセプトは「自然の道」「安全の道」「テーマ性のある道」「変化のある道」。九州の変化に富んだ風景や食文化を活かし、コロナ前に歩いた人は2015年に9万7千人。韓国の方以外にも日本人の国内旅行者の参加も増え、コロナ後のこれからが正念場と思っています。
「出会いの中で成長した」
宮城オルレ・梶村和秀宮城県商工観光部長
知事から「訪日外国人観光客の増加を」とハッパをかけられ、済州オルレの方々、続いて台湾の千里歩道協会との出会い、また国内では倉吉のNPO未来の方々との出会いがあり、松島の絶景や温泉、古い町並みなどを生かし、もうすぐ県内に5コース目が誕生します。私たちのアドバイザーで、済州オルレ日本支社長の李唯美(イ・ユミ)女史の支援が大きいと感じます。
「Wリゾートを目指したい」
宮脇正道湯梨浜町長
3町合併で誕生し、東郷池をはさんで2つの温泉、日本一の梨生産、美しい浜など魅力に富んだ町。2013年にまちづくりの将来を考える会議で「ウオーキングリゾート」構想が浮上し、ノルディック・ウォーク全国公認コースの第1号に認定されました。その後、NPO未来から「オルレ友情の道」の提案があり、コロナ禍で延びましたが2020年に協定を締結。東郷湖畔では温泉と特産品を活かした「ONSENガストロミーウオーク」も開催しており、今後は「ゆりはまオルレ」をぜひ設置したい。
第3部「ウオーキングと観光&インバウンド」
ウオーキングは、はたして観光客の掘り起こし、特にインバウンド観光の追い風になるのか。コーディネーターは観光経営が専門の西村典芳流通科学大教授。「国内外から観光客を呼び込む効果的なノウハウ」など、より戦略的で具体的な内容に話は進みました。
「今後インバウンド取り込みを」
本橋華春彦ONSENガストロノミー推進機構事務局長
ガストロミーとはギリシア語の「胃袋」(ガスト)と「学問」(ノモス)を組み合わせた言葉で、フランス・アルザス地方の「ワイナリー巡り」が元祖。その土地の伝統文化や食材、歴史、習慣によって育まれた食文化、さらに日本に豊富にあるONSEN(温泉)というキラーコンテンツも取り入れ、「めぐる、たべる、つかる」をコンテンツに長期滞在型観光を目指すウオーキングイベントです。これまで倉吉で4回、湯梨浜で6回、年間では全国各地で40回ほど開催していますが、まだインバウンドの客の取り込みにまで至っておらず、今後の課題です。
「相手の関心や目線を大切に」
周聖心台湾千里歩道協会執行長
インバウンドは、相手の国の目線、関心を重視したアピールが大切と思います。私たちは18年前、手作りの小さなトレイルからスタートしましたが、現在、300~180キロの海山を楽しめるロングトレイル3コースを含む多くのトレイルを設け、台湾だけでなく多くの海外客を受け入れています。一方で地域の自然や景観を守る事業、道路修復のボランティア活動にも力を入れています。済州オルレをはじめ海外のウオーキング団体との交流はノウハウが広がり、大きな刺激になります。
「歩く方は富裕層が多い」
李唯美(イ・ユミ)済州オルレ日本支社長・宮城オルレアドバイザー
済州オルレの創始者は「地図は読めない」「少し先も車で行く」という方でしたが(笑)、スペインの巡礼の道を歩いた感動から、この運動が始まりました。九州オルレ、それに宮城オルレは済州と同じ標識やルールなので韓国人はすぐ歩けますが、それを知っている日本の方も済州ですぐ歩けます。また海外だけでなく、九州と宮城の方々も相互に。また、韓国からのインバウンド客は「リアル・ジャパンに会えた」と喜びますが、旅先を長期間歩き、日頃から健康に気をつかっている人は富裕層が多い。経済効果は大きいものがあります。
「倉吉は日本らしさで勝負を」
金相俊(キム・サンジュン)近畿大教授・地方創生観光研究所代表
観光は地方都市にとって、人口減による地域間格差を補う「基幹産業」になりうる。小泉首相の大号令から、2018年、2019年は訪日外構人観光客が3000万人を突破。出国日本人を上回ったが、コロナがストップをかけた。外国人観光客に泊まってもらうには彼らが一番求める「日本らしさ」が決め手だが、倉吉にはそのポテンシャル(潜在力)が十分ある。今後は「滞在時間延長」「関金温泉の振興」「周辺観光地との連携」といった諸課題を、ウオーキングを通じて達成していくことです。